2018/08/27、ナショナル・ストーリー・プロジェクト I、ポール・オースター編、新潮文庫
2018/09/16、ナショナル・ストーリー・プロジェクト II、ポール・オースター編、新潮文庫
「ほとんどすべての物語に忘れがたい力がみなぎっている。誰かがこの本を最初から最後まで読んで、一度も涙を流さず一度も声を上げて笑わないという事態は想像しがたいIt is difficult for me to imagine that anyone could read through this
book frm beginning to end without once shedding a tear, without once laughing
out loud p.xx」p.21とあるがこれは私には本当だった。
『アンダーグラウンド』『約束された場所で』『捨てられないTシャツ』に続き市井の人たちの話を読んだが、実に面白かった。truth hits everybodyという曲があるがchance hits everybodyだなとしきりに感じる。偶然というものがこれほどまでに人を驚かせること、魅せることをつくづく思うし、たとえば聖書に奇蹟が述べられていることもそうした傾向の表れであり、そして奇蹟は本当にあったのだろうと思い至る。
こんな経験と、人はどう折り合いをつけていくのだろう。何の教訓もなければ、きちんとした結末さえない。誰かに語りたいし、誰の口からも語られるのを聞きたい、でもどうしてなのかは自分でもわからないのだ。p.355 What do you do with a story like that ? There is no lesson, no
moral, barely even an ending. You want to tell it, hear it told, but you don’t
know why. p.231
「パンナムのところに人がいただろう、この雨の中。子供もいた。クリスマスだってのに。見ていられない」p.363
みんなが座席におさまると、わたしの父が後ろを振り返って、サンタさんはもう来てくれたかい、と子供たちに訊きました。黙って見つめ返す三つの暗い顔が答えの代わりでした。
「ははあ、やっぱりな」 わたしの父はそう言って、母に目くばせしました。「実は、けさサンタさんに会ったんだが、君たちの居場所がわからないと言ってひどく困っていたよ。それで、おじさんの家にプレゼントを預かってくれないかと言われたんだ。バス停に行く前に、ちょっとそれを取りに行こう」
三人の顔がぱっと輝き、とたんにシートの上で跳びはねたり、笑ったり、おしゃべりしはじめました。p.364
「死」の章におさめられている「サウスダコタ」の話は、ツイン・ピークスを連想させる。
夢の研究をしている人達に言わせると、夢に出てくる人物は、すべて自分の心の中の何らかの要素を象徴している。もしも私が患者であると同時にその女医でもあるとすれば、私は自分に、ジミーの死と向き合うのにこんなに時間がかかってしまったのはそれほど傷が大きかったからだ、きちんと専門家の手当てを受けなさい、と教えていたことになる。pp.282-
と、私の心はつかのま、ホイールキャップの凸面に映った不思議な光景の鏡像のとりこになった。その盛り上がった表面に、私自身と、私のうしろにぼんやり浮かび上がる土手が映っていた。土手はキャップの縁の方で大きく広がって、私のまわりの光景に不釣合いに大きく溶け込んでいる。エンジン音がだんだん大きくなり、車そのものが、光り輝くキャップの表面に姿を現わした。この小劇場の丸天井に、夕暮れ空の鮮やかな赤が映えていた。p.337 万物照応、奪人不奪境の境地にあるということか。
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